河童の好物はなぜ胡瓜なのでしょう。確かに胡瓜は夏の食材ですし、生でバリバリ食べられますし、そのみずみずしい青色が河童のイメージと重なるとはいえますが、別に夏の食べ物でしたら、スイカとか茄子とか、他のものでも良いようにも思えます。 少々ややこしいのですが、それは祇園祭りで有名な祇園社(八坂神社)と関係しているようです。同社の紋は木瓜(もっこう)紋で、これを訓読みするとキウリになり、それがキュウリに通じる、あるいは木瓜紋が胡瓜の切り口に似ていることから、祇園社では胡瓜を特別な食材とし、神饌に用いたり、胡瓜を食べることを慎むようになったとされています。 一方、同社の祭神である牛頭天王は、流行病・天災をつかさどる疫神であるとともに、水神でもあり、中・近世を通じてその信仰が全国に広がってゆきました。江戸の後期に至って疫神・水神たる牛頭天王イメージから川辺の妖怪河童が生み出されると、その供物として胡瓜が選ばれます。祇園社と胡瓜、牛頭天王と河童との関係からすると妥当な選択ですが、その関係が曖昧になると、河童の好物だからと説明するようになったのでしょう。
【挿絵解説】品川牛頭天王御輿洗の図(『江戸名所図会一』名著普及会、1975年より) 六月六日の品川牛頭天王社の祭礼に際し、清めの儀式として御輿を海へかつぎいれている場面です。細かくてわかりにくいですが、神輿の屋根には木瓜紋が三つみえます。水神と胡瓜の関係がなんとなく見えてきませんか。
【参考文献】・竹田旦「水神信仰と河童」『民間伝承』13-8、1949年 ・松前健「祇園牛頭天神社の創建と天王信仰の源流」『角田文衛博士古希記念 古代学叢論』1983年 ・石川純一郎『新版河童の世界』時事通信社、1985年