「そこらあたりの茎ばっかしのキャベヂから、ただもういちめんラムネのやうに、ごぼごぼと湧くかげらふばかり、鳥の踊りももうおしまひ」。これは賢治の「ふたりおんなじさういふ奇体な扮装で」という詩の末尾です。高原のキャベツ畠へ二人の女性が登ってくる、その背負った二本ずつの鍬の柄が天使の羽のようで、踊っているように楽しげ、空高く雲雀がさえずり、春の日差しで陽炎がゆらめく、それに見入っている賢治といった場面です。 舞台のキャベツ畠は既に収穫を終え、ラムネ瓶のような茎だけが一面に残されています。キャベツはヨーロッパ寒冷地の原産でして、明治初頭に日本に導入され、北海道や東北北部で栽培されるようになりますが、一般に普及するのは戦後になります。賢治の頃にはまだ、欧米人かハイソな人のみの食材でした。 ハイカラなる野菜=キャベツ・天使のような二人・美しい自然の傍らで賢治はただ見つめているだけなわけですね。「踊りもおしまい」とか言っていないで、一緒に踊ればいいじゃないか!と思うのは私だけでしょうか。
【挿絵解説】葉牡丹の図(「剪花翁伝」『日本農業全集55園芸2』農産漁村文化協会、1999年)より 「剪花翁伝」は江戸末期の弘化4(1847)年に公刊されたいけばなのハンドブック的な書物です。図中央下部にある葉牡丹は、江戸時代に入ってきたキャベツの観賞用の栽培変種です。
【参考文献】・『「春と修羅」第二集 研究』宮沢賢治学会イーハトーブセンター、1998年 ・青葉高『野菜の日本史』八坂書房、2000年 ・小関和弘「木炭と甘藍」『宮沢賢治研究ANNUAL』12,2002年