秋味といえば鮭ですね。初鮭は「夏末・秋初」に捕れたものだそうです。ただし、これは旧暦の話ですので、現在でいえば10月頃です。この頃の鮭はまだ銀色で肉も鮮やかな紅ですが、晩期にむかい肉の紅色も薄くなり味も落ちます。ただし、天皇や将軍に献上される「初鮭」は、シーズンの初めの鮭ではなく、まさにシーズンの最初に捕れた鮭のことです。 天皇に仕えた女官の業務日誌である『お湯殿上の日記』(中世末~)には、日々、天皇へ贈答された品々が記録されていまして、そこには初鮭の献上もみえます。鮭の産地である若狭の守護武田氏は永禄元年~元亀元年まで7回献上していますが、まもなく滅亡してしまいますので途切れます。室町将軍足利義輝は永禄8年、松永久秀に京都二条御所で殺害される前年まで6回献上しています。若狭武田氏を滅ぼした織田信長は、安土城を築いた翌年の天正8年に献上し、徳川家康は豊臣秀吉が死去した翌年の慶長4年から献上し始めて、以後、幕府の慣例となっているようです。 つまり天下を制した者が「初鮭」を制しているわけです。永禄4年8月20日に天皇に初鮭を献上した武田義統(よしずみ)は、「国静かなる(若狭が平和なので)」といって贈っています。戦国時代とは、なんとも厳しい時代ですね。
【挿絵解説】越中神通川之鱒の図(『日本名所図会全集(日本山海名産図会)』名著普及会、1975年) 古代以来、若狭・越前・越後・越中という北陸、及び日本海に注ぐ信濃川をもつ信濃が鮭の名産地でした。江戸時代になると江戸に近い常陸や、廻船の発達にともなって蝦夷が産地として台頭します。
【】・市川健夫『日本のサケその文化誌と漁』NHKブックス、1977年 ・盛本昌広『贈答と宴会の中世』吉川弘文館、2008年