明治天皇と牛肉

明治天皇と牛肉 イメージ

明治4年12月17日はある意味、近代と前近代の境目です。この日、古代以来の禁断であった、天皇の肉食が解禁されました。牛・羊は平常、豚・鹿・猪・兎の肉は時々、食事に出されることになりました。それまで天皇は、人々の肉食を禁止する立場にありましたし、なにより肉食によって天皇の身体が穢(けが)されることなど思いもよらないことです。天皇に仕える公家衆は皇居を穢さぬような細心の注意が必要で、親族で死者が出れば服暇をとり、また自宅の軒下で犬が死んでいたり、犬が出産するなど偶発的な事件であっても、穢に触れたとして宮中へ参上しません(ずる休みの口実にもなります)。  それがこの日、180度転換し「朕も食べるので君等も食え」となったのですから驚きです。しかもその理由は「其いわれなきを以て」だそうで、つまり肉を食べない「理由がなかったから」というのでは笑うしかないでしょう。ほんの数年前までの禁令はなんだったのでしょうか。  もちろん、これは明治維新の開化政策の一環であり、西洋文化を天皇自身が受入れ、臣民の開化を促進するためのパフォーマンスでした。同日、宮中への参上には靴を用いることが命じられます。つい先日までは、平安時代以来の装束に身を固めて参上していたのに・・・・。千年以上も続いた儀礼国家が消滅する瞬間です。

【挿絵解説】牛肉屋の図(牛店雑談安愚楽鍋『明治文化全集8風俗編』日本評論新社、1955年より) 「安愚楽鍋」は庶民作家・仮名垣魯文の明治4年の作品です。牛肉店にあつまる開化期の庶民の様子を描いた娯楽読み物で、その挿絵には、袴・帯刀でこうもり傘をさす男、ロシア人風の数人を乗せた馬車とそれを追う犬、ちょんまげ姿のミルク・チーズ・バター売りが描かれていて奇妙です。

【参考文献】・福原康雄『日本食肉史』食肉文化社、1956年 ・原田信男『歴史のなかの米と肉』平凡社選書、1993年 ・『明治天皇紀2』吉川弘文館、1969年

> 美味しい日本史 一覧

> kusudama ● レシピ