年取肴(魚)という言葉をご存知でしょうか。「としとりざかな」と読むそうです。大晦日の食事の際に食べる魚のことですが、主に鮭や鰤が用いられます。年を取ることは老化することですので、あまり良い感じはしませんが、かつては新しい年を迎える、再生の時が訪れるという宗教的感覚からめでたいこととされていました。ですので御馳走であった鮭・鰤を食べてお祝をしたわけです。 塩鰤は、年取肴として、あるいは正月の雑煮の具に用いられます。戦前は貴重・高価な食品で、殊に産地から遠い内陸部、たとえば中国地方の山間部では「鰤一本米一表」といわれるほどだったそうです。お金持ちはともかく、庶民はせいぜい「しかいち(四分の一)」ほどしか購入できませんでした。 鰤が年末年始のお祝品となったのは、塩で加工すると旨味が増し保存性が良い、皮が堅く輸送に適している、大きい、といった理由がありますが、他に出世魚といって成長するに従って名前がかわる魚であることから、出世する=めでたいという意味もありました。きっと年末の市場は、今年は「しかいち」でも来年は出世して一本買うんだ!という意気込みで賑わっていたのでしょう。「あ~あ、また年を取っちゃな~」などという生命力の乏しい人には雑踏は似合いません。
【挿絵解説】「鰤追網漁」『日本山海名産図会(日本名所図会全集)』名著普及会、1975年より。 丹後与謝の入海(京都府宮津市・岩滝町、天橋立付近)で捕る鰤が最上品だとし、そこでの追網漁を紹介している。捕れた鰤は腸を抜き塩漬けにして塩鰤に加工するとある。
【参考文献】・胡桃沢勘司「越中鰤-その加工と流通をめぐって」『地方史研究』47-4、1997年 ・今田節子「正月雑煮に鰤を使う習慣の伝承背景」『生活文化研究所年報』21、2008年