黒豚のラード 鹿児島の陣之内工房
ドイツのパンのレシピや、中国のおやつの作り方を見ていると、材料にラードが入ってくることがたまにある。試しに作ってみると、うっと鼻につく香りが残ったりして。「実際はこのようなものではないだろうに…」と感じていた私は、かねてから質のいいラードを欲しいと思っていた。
それが実現したのがこの春。鹿児島へ足を伸ばし、大口市の豚加工業者、陣之内敏さんとお会いした時だった。その日は朝から大雨がふっていたにもかかわらず、陣之内さんのジープに乗ったとたん、ガラリと晴れ上がり、1日北薩の食材ツアーに。昼過ぎ、車はくねくねとした山道を登り、ぐわっとひらけた場所にただどり着く。そこにはたくさん黒豚が!マスモトさんの豚舎だった。
「手足と鼻としっぽの先が白いから、六白って言んだよ、マスモトさんのところの豚はよ、何がちがうかって言うと、最後に焼酎かすをいっぱい食べさせるのよ。さつまいもと、焼酎かす、これで豚がうーんと変わるの。生産効率を求めるとそんなことはしないんだけどね、マスモトさんはやってくれるの。この黒豚はね、繊維が細かいから冷凍枯れしないのよ、それに黒豚の脂はよ、融点が低いから、体の中で溶けてくれて、さらっとしとるのよ、胃や腸にべっとりするようなことはないよ」。
豚舎から戻ってきた私は、早速陣之内さんの工房で解体した豚の肉を見せていただく。まずは背脂。3日くらいすると,さつまいものデンプンでカチンコチンになるが、黒豚は筋がないから、肉との間にスーっと手が入っていく。このラードは、背脂と腹脂でつくる。腹脂は1頭から約500gしかとれない。しかも、これを入れないと、白くはならない。たくさん採れないから、量産はできない貴重な品である。
「美里ちゃん、このラードでよ、クッキーを焼いてごらん。」
陣之内さんはと真っ白な美しいかたまりをくださった。「さくっとおいしいのが出来るよ。これはいろんなものに使えるよ。試してごらん。」
さて私の普段の食事は、ほとんど野菜である。だけど、底味にはよく動物性のものを使う。鰹だしであったり、丸鶏のスープであったり。そこへ、この新しいラードが加わった。炒め物にも、汁物にも、隠し味として、陣之内さんのラードを使う。ただ野菜を炒めるときも、野菜だけでスープを作るときも、これが絶好の調味料になる。とてもよいだしが出るのだ。さらっとしていて胃にもたれない。うまみはしっかり。
黒豚と野菜の相性はとてもよいのだ。先週も、知り合いから届いた段ボールの中には、いっぱいの季節はずれのキャベツが。「ちょっとラードの力を借りようかな」と冷蔵庫に手をのばすと、陣之内さんの声が聞こえてくる。「白豚は水をたくさん飲むけど、黒豚は水より草が大好きなのよ。だから、黒豚には野菜をあわせるといいんだよ。美里ちゃん、どんな場所にいてもな。迷ったときはよ、いつもいつも底辺と末端を忘れないでいることよ。いつもここで見た豚を頭に描きながら、東京に帰っても料理をしなさい。」
これがラード
300g1000円消費税込み、送料別途
(陣之内工房 0995-22-8304)
黒豚。鼻が白い。
マスモトさんと豚のえさ。さつまいも、焼酎かす、の他に、いろいろなものが配合されているらしい。これを食べて、おいしい豚になる。
陣之内工房にて。脂を切るところ。
ライ麦パンに少しラードを入れて焼いてみた。しっとり、美味しくできあがった。
【06.10.2】


