早春の舌触り シャグシャグ
その人は、キュッとまとめた髪にかんざし、赤い口紅、ろくろを廻す粘土だらけの手には、朝からウィスキーのお湯割り。
北鎌倉の陶房の庭から、摘んで茹でたての緑を戴きました。甘く、ぬるり、シャキシャキとしたこの草は何と問えば、「シャグシャグ」。三十数年前のことでした。
蓼科に移り、巡る春ごとに、フキノトウでもセリでもない、もっと優しい野の味、シャグシャグを摘み、味わいました。それはヤブカンゾウ。ご自分の言葉をたくさん持つ、辛辣な物言いの陶芸家は、また会えると油断しているうちに、早々と逝ってしまいました。私の唯一の師匠でした。
茹でて「地」の醤油をさっぱりとたらしただけの緑が、私たちの定番。スタッフたちに受け継がれ、ここでは今もシャグシャグです。
06.05.10
【文】萩尾エリ子 【写真】原田留里


